「波の上の魔術師」
多分一番好きな作家。石田衣良。そんな彼の経済クライムサスペンス。ドラマ「ビッグマネー」になったらしい。この画像はハードカバー。
独特のクールな切り口とクールな若い目線で進んでいく株を題材にした小説。腐ったパチプロ生活を続けていた白戸則道は、一日で世界がぐるっと変わってしまう出会いをする、その出会いは小柄な老人投資家。彼に株の世界を骨の髄まで叩き込まれた則道は、老人とコンビを組み、狂った「変額保険」を仕掛けたまつば銀行に知力を尽くしたディールを仕掛ける。
あまりにもクールな小塚さんに惚れました。
何よりも状況があまりに自分と寄り添っていてかなり感情移入出来ました。あまりに劇的でドラマティックな素敵な話なんてそうあるものではないと思ってもそんな話が前にぶら下がっていて、それがあまりに魅力的なものだったらはまってしまう気持ちは良く分かる。そしてそれがあまりに優しい彼女と引き替えにしてもそっちを選ぶその気持ちも。熱中出来るそんなものはそうないし、それを障害の仕事にする則道があまりにうらやましくさえある。そんな中で損をさせない話であり、情報小説でもある。爽快感もあってそんなところがたまらない。個人的にこの小説の中で一番心に残ったのは
「魔術師は揺れ動く数字の波に感覚をピタリと沿わせ、自分自身の欲望を完璧と言える程制御していた。」
これは時代を生きていく中で、一番必要な要素かも知れない。僕も、時代の波に感覚を沿わせる事が出来ず失敗し続けているし、欲望をコントロールしきれず失敗した事がある。身に染みた言葉でした。
ドラマティックでクールなのにその中で人情味があったり、最後には希望が溢れている。甘っちょろい考えと呼ばれてもこの小説にはこの時代にない希望が詰まってる感じがする。
石田衣良「波の上の魔術師」 文春文庫 ¥476