「娼年」

娼年 (集英社文庫)
村上春樹の主人公っぽいどこかうつろでけだるい主人公のリョウが、彼にとっての魅惑の仕事「娼婦」に出会い、様々な女性の魅力を通して欲望の奥深さに見せられながら過ごした1つの季節を描いた恋愛(?)小説。

個人的に石田衣良作品の中で一番好きかも。何よりも非常に精細で美しい女性描写とクールで感覚的な周辺描写、その中に欲望を汚いものとして扱わずその欲望を大切に扱う優しい視点が好きです。

こういう小説は思いっきり下品に欲望にある意味で素直に書き散らすというかオブラート無しにダイレクトに出すものもあるけど、これはあくまで上品でその欲望に対して優しい感覚に包まれている感じです。正直男性の作家としては珍しい感じさえします。基本的には話の筋としてはそんなに目新しいというかドラマティックなものではないですが(ラストは結構ドラマティックかな?いや、予測出来る範囲だろうと・・・・)この小説は話の筋よりもその中に織り込まれている上品さと優しさが最大の魅力なのだと思います。んー、同じ事書いてる気がするけど、とにかくこういうそういう風にしか表現出来ないです(苦笑)

「でもぼくは真実も深部も見たくはない。表面を飾ろうとする気持ちだけで、ぼくにはどの女性も魅力的に見えた。悪趣味でちぐはぐな衣装だと人をあざける事は、ほんとうは誰にもできないはずなのだ。この世界では誰もが手近なボロ隠しをまとっている。黄金の心をもつ正しい人間だけ裸で外を歩けばいい。ぼくは裸が嫌だからボロを着る。」

この文にもあるとおり、この小説は優しかったり、上品だったり、そして癒される表現小説だと思います。優しい心になれる気がした一冊でした。

石田衣良娼年」 集英社文庫 ¥400