最後の息子

最後の息子 (文春文庫)僕が吉田修一が大好きになったきっかけの一冊。「閻魔ちゃん」という新宿でバーのママをしているオカマと同棲しながら、きままで気楽な生活をしていた主人公。そんな中、飲み仲間「大統領」の死をきっかけに、ビデオ映像を通して生活の邂逅をしていくひりひりする青春小説。

この小説の読みどころはやっぱり主人公の心の揺れが痛切に感じられる描写ではないでしょうか。自分は汚れない清廉潔白な心を持ち合わせてはいないという事を自覚しながらも、本心とは別の行動してしまったり、ある意味自覚した「演技」じみた行動してみたり、人間の裏の部分を描いています。そんな事を自覚している事で心に揺れを感じ、不安定な心中を表す行動などがクールな目線で描かれている部分が非常に面白くまた感銘したりしました。閻魔ちゃんの優しくもまた現実の中で見ている視点とのギャップも素敵でしたし。そんな二人の生活を覗いた感じです。

ちなみに短編集で表題作の他に「破片」「Water」というのが収録されています。もちろん一番良かったのは表題作「最後の息子」なのですが、「Water」もイイですw水泳部のキャプテン凌雲の高校生らしい悩みと根深い悩み両方を抱えながら高校生活最後の大会までの生活を描いた小説なのですが、もうこれ以上ない青臭い青春を感じられたりして、素直に若いって良いなぁと思ってしまったりしまうダイレクトな作品です。

吉田修一最後の息子」 文春文庫 ¥505