熱帯魚

熱帯魚 (文春文庫)表題作含めた3作の短編集。大工の大輔は子連れの女性と同棲中、そこには引きこもりの弟も一緒。そんな不思議な生活の中、自分が生活を支えていてその善意が彼自身の支えともなっているが、1つの下心と不注意からの事件が全てを変えてしまう。若さ故のエゴが引き起こす溝、そして孤独を表すひりひりとした青春小説。

短編なのに、不思議と色々と深みがある感じです。誰もが若い時は周りの意図を汲み取れず、無為な自信を抱きがちなところで、それがまた壊れてしまった時のひりひりしたところがたまらない・・・・・。自分の善意は得てして、周りの人が同じように善意と感じるかはわからない。そんなエゴがまた痛い。段々と崩れていく過程の中で彼の葛藤や心の揺れ、そしてだんだんと離れていく周辺・・・・、切なくて痛い。

もうなんて言ったらいいのかわからないけど、根拠のない自信というのは確かにあるなぁと思ったり、凄い痛かった(苦笑)善意としてやっている事は結構相手にとってもいいことを「してあげてるんだ」と往々にして思いがち。相手にとってこれは迷惑かも、押しつけがましいかもとか気づかない。そんな痛みがひりひりとしたのかも。もちろん善意自体は良いのだけど、どこまでそのされるひとの意図を汲み取れるかは難しいと言うより、なかなか出来るものではない。短編だけど考えさせられる。

他の2編もそんなエゴや思いこみ、そして痛い。きっと吉田修一が表現豊かに書いているからなのかも。創造力を喚起させられるような一冊。

吉田修一「熱帯魚」 文春文庫 ¥448