「ナイフ」

ナイフ (新潮文庫)いじめという共通のテーマにした5編の短編集。主人公がいじめられている子本人だったり、その父親だったり、幼なじみだったりとその視点からリアルな現実とほのかな希望を描いた現代小説。

非常に重いテーマで、それなりにリアリティがあって簡単にパラパラ読めるような小説ではないです。何もないところから始まったしまう、現実的で陰湿ないじめの数々に対してきれい事だけでは済まされない苦しい戦い、その中で苦しみながらも自分と戦いその中で色々なものを理解し、向き合い立ち向かう。そんな人間の弱さの中でのやるせなさとはかなさ、そして優しさを感じたりしました。

確かにいじめは良くないのは誰もがわかっているけれど、何かその自制心を失ってしまった「いじめる側の子」の恐ろしさは現代の凶器として心底怖い気持ちになりましたし、そのいじめられる子の立ち直れないぐらいの深い傷とその中にうずく小さなプライドだったりと、非常にナイーブな心理描写はやはり重松清らしい感じで、重いけど心にぐっと来ました。

今そんな学生時代真っ最中の人、その親、当時者な人もそうでない人にも読んでほしい。あまりに現実的で痛いけど、その恐ろしさも入っているし、心に染み渡るこのヒューマンドラマを読んでほしいなぁと思いました。正義の味方なんていないけどって言う説教臭くないスタンスが素敵ですし、学校指定図書にしてほしい一冊です(そんな事してもなくならないだろうし、読まない子が多いだろうけど)

重松清「ナイフ」 新潮文庫 ¥590