「反乱のボヤージュ」

反乱のボヤージュ (集英社文庫)首都大学の中央に立つ「弦巻寮」を舞台に、大学側と寮生の間で存続のせめぎ合いを行う中、舎監がやってきた。この舎監・名倉は古ぼけた寮則を持ち出し、寮生達を縛っていく。しかし、次々と彼らの周りで起きる問題の中で寮生と名倉の信頼関係は高まっていく。コミュニティの中での人間ドラマを描いた小説。

主人公は薫平という首都大学生の入寮者で、彼の目線で物語が進んでいくのですが、ただその傍観者的な目線にさえメスを入れたりと非常に個性的な登場人物が浮いてくるようになるのは、この作家さんの力量だなぁと。てゆうかこう言うところが読んでいてうやむや感を感じない所で非常に好きです。

でも話の中核をなすのは舎監・名倉。非常に謎で元機動隊で昔も闘争で学生達を殴りつけていたという過去から非常にダークなイメージを纏っていたのですが、ページを捲る事に少しずつ彼の過去や人間味が出てきて非常に逞しく、またなくなりつつある父性を感じるような形になっていく様は非常にハートフルです。

現代において父親の存在感が失われていると言われていますが、コミュニティに置いてこのような存在の頼もしさだったり、大きな優しさだったり、厳しい目線だったり、そして責任感だったりと様々な部分で「その人のために」と考えてくれる人がいないというのはその人にとっても大きな損失なのかなぁと。相対的な目線でものを見たりというのが、子供な大人を沢山生み出している理由なのかも知れませんね。*1そんな風潮の中で一石を投じた作品のような気がします。

本当にイイ小説です。読んどけ。

野沢尚反乱のボヤージュ集英社 ¥720

*1:自分なんて特にそうかも