「破線のマリス」

破線のマリス (講談社文庫)首都テレビの敏腕編集マン遠藤瑶子はニュース番組の肝となっていた「事件検証」を彼女の虚実を生むモンタージュを駆使して刺激的な映像を作り出し、番組を支えていた。そんな中で郵政省の内部告発を記録したビデオが瑶子に持ち込まれ、彼女の編集マンとしてのテクニックが相乗効果を生み、ものすごい波紋を呼ぶ。しかし、そこから瑶子自身も事件の泥沼に引き込まれていく。

テレビ・マスコミ界の裏側を生々しく描きながら、報道というものは何か、というものも教えてくれるミステリだけに終わらない部分は素敵だったりしますが、その中での事件が様々な方向を向きながら進み、それがまた真実かどうかわからない。これぞミステリーと言った作品。映画化された事もあって、非常に作品自体も映像化のような話の流れだったような気がしなくもないですが、読んでいて目線がぶれたりしてちょっと難しい。色々な登場人物の心理描写が次々に描かれるので、それこそどれが真実かをぼけさせてしまう(まあそれが狙いなんでしょうが)してやられました。

メディアを鵜呑みする事自体が危険だという事を警鐘していながら、この作品自体読者に一つの方向だけの情報を鵜呑みにする事を許さず、強烈などんでん返しをするところは非常にびっくりしてしまいました。非常に残酷な事実は、ある人にとっては非常にきつい真実なってしまったりするのですが、もう全てを味わってほしいなぁと。

ただ彼女のように権力(言い方は良くないですね)を司る人間の本質というものが出たり、いつもと違う側に立たされてさらけ出される人間の弱さなど、人間の裏側も鋭く描いたその描写はぞくぞくしたし、読めない収束への向かい方などはこれぞミステリーと言った作品です。

主観的に物事を考えるのは簡単な事です。しかし、自分が苦境に陥り余裕を失えば、逆側に立って色々な事を考えて行動するのはなかなか難しい事。ましてや心境を推し量るのは不可能に近いかも知れない。でもその中でどこまで思いやりを持ったり、自分の中に冷静に状況を把握し、考える力を持つという事が必要な事ではないでしょうか。非常に筋も面白いし、考えさせられるものもあったりと非常にプッシュ出来る作品だと思います。

野沢尚破線のマリス講談社文庫 ¥650