「秘密」

秘密 (文春文庫)正直もの凄い感動しました。本当に最後にほわっとして、じわっと涙が出てくる感じなんです、それはこの小説の中で積み重ねてきた生活が押し出すものがあったからだと思うのです。SFノスタルジック愛情小説(?)

平凡な一日の終わりになるはずだった夜勤後の食事の時間。妻と小学生の娘はスキーバスに乗って親戚のお葬式に向かって一人の食事。そんなそんなちょっとした時間の中でのテレビから、そのニュースは流れてきた。事故により妻は亡くなり、娘は意識不明に陥ってしまう。そんな悲しい時、大きな不思議な出来事が起こる。妻の人格が娘の身体に乗り移り、不思議な生活はここから始まる。彼女はどんどん成長していく中で、様々な問題が起こる事で少しずつバランスが崩れ始める・・・・。

何となくSFっぽいじゃんとかヒロスエの映画だろ?とか思った訳ですよ。結論はさっきも書いたとおり大間違い。非日常的な設定も全然気にならず、平助(主人公の夫)の心の揺れ、焦り、葛藤、苛立ち、嫉妬、妄想、様々な心の動きがあまりにリアルで、痛い・・・・。平助の考え、直子の考え、そしてそれぞれの愛情・・・・・。その思いも理解出来るし、また痛い。ラストは全ての絡まった糸がほどけるようになり、そこがまた泣けてしまう・・・・。

東野圭吾の大事な部分を省かない丁寧な描写があったからこそだと思います。多分不必要な部分はこの小説にはなかったと思う。確かに長いし、省く部分があっても良いのかも知れないけど、省いてしまえばそれだけ積み上げたものが少なくなってしまうし、それがラストの重みを減らしてしまう。やっぱりもの凄いバランスが良いのも素直に泣けた理由かも知れません。

男女によって凄い感じ方に違いがある小説だというのもわかります。男性の欲望の問題、母親として自分の経験を生かして素敵な女性となってほしいからこその努力、感動する部分もだいぶ変わってくるのでは?とにかく名作です、何度読んでもイイです。

東野圭吾「秘密」 文春文庫 ¥590