コンフェデ準決勝 アルヘンティナvsメヒコ

痺れた、このサッカーは見方によってはぐだぐだの静かな試合に見えるかも知れないけど、二つの国のサッカーレベルの高さに震えた。

FIFA Confederations Cup 2005 Semi Final
Mexico 1(5 PK 6)1 Argentina @ Hanover
MEX:104'C.Salcido ARG:110'L.Figueroa

メヒコスタメン:GK O.サンチェス、DFサルシド、オソリオ、ピネダ、MFマルケス、パルド、メンデス、ロサーノ、シーニャ、モラレス、FWボルヘッティ
アルヘンティナスタメン:GKルクス、DFサネッティ、G.ミリト(←66'マキシミリアーノ・ロドリゲス)、コロコロさん、エインセ、MFカンビアッソサンターナ(→76'アイマール)、ソリン、リケルメ、FWサヴィオラフィゲロア(→116'ガジェッティ

  • 両チームともチームとして狙っている事は違うのだけど、似ているところも沢山あった。まず、固められた中で急いで攻めて雑になるくらいなら、丁寧に繋いで失わずに穴を見つけるという事をしっかりとチームの中で意識されているという事。そしてそのために必要な技術というのが備わっている事。ブラジルが魅せるプレーなら、アルゼンチンとかメヒコのプレーは実効的で奪われないためのプレーという感じ。プレスも掛けるしそういう意味ではモダンなわけだけど。
  • ただ狙ってた事は違った。メヒコはスペースが出来たら結構カウンター含めてスピーディーなアタックをしたいのかなと。スピードアップできる時は常にそういう状態だった気がする。あくまでも整えられてしまった時の選択肢としてのあの細かいリズムのポゼッション。アルゼンチンはどちらかと言えば自らゲームのスピードを落とし、相手を引き出し、空いたところを個々の技術とグループ戦術の高さで抜いてやろうという感じかなと。司令塔であるリケルメが全くボールを獲られないので、そこで引きつけて必然的に空いたところを使うと言う感じかなと。そのレベルが高いから、メヒコとしては良い奪い方をしてカウンターにも出れず、チャレンジが死を呼ぶ状況では硬直して我慢比べをするしかなかった。そういう意味では前半はアルゼンチンのペースだったのかなと*1
  • ただ、サヴィオラフィゲロアがマークをはずせなかった事。前を向いて個力を発揮できなかったこともあって、崩しきれなかったし、攻めに置いてはアルゼンチンの手詰まり感は否めなかった。リケルメはキープに置いては素晴らしいけど、もう少し変化を呼ぶようなプレーが必要だったのかなと*2。メヒコは復帰のマルケスをアンカーで使い、リケルメの所では取れなかったけど*3、局面で戦って潰す。それをサボらなかった事で完璧に押さえ込んだ。罠も張ってた感じかな。
  • アルゼンチンはDFも凄い。何か神様みたいな守り方。相手のやる事を先読みしてポジショニングを取り、そこに見事にボールが来て簡単にとってしまう。コロッチーニの読みとポジショニング、サネッティの1vs1の対応は芸術。細かいプレーではメヒコも素晴らしい技術で対抗し獲らせてくれないし、力押しのボルヘッティ、前でこちょこちょするシーニャのミドルは手こずっていたけど、アルヘンティナは一枚違うかなと思った。前半の時点ではね。
  • でも後半になって、その静かな展開に代わりはないし、どちらかと言えばアルゼンチンはより崩す意識が高まっていたと思う。エインセも高い位置に出てきて何本もクロスを上げていたし、ソリンは相変わらず前に出てくる。マキシとアイマールというリーガのNo.10を背負う選手が入ってきてと勝負に来ていた。でも効果的な攻撃をしていたのはメヒコ。お互いに厚い壁に阻まれていた中で、スペースが出来てきて*4、アタッキング・サードまで入っていく事が多くなってきた中で、簡単に言えば鍵を見つけていたのかなと。ボルヘッティのポジショニングとヘッドに活路を見いだし、ボルヘッティもそれに応えて何度も消えては出てくる存在としてアルゼンチンの守備の隙を取りかけていた。寸前でクリアされたり枠に飛ばなかったりと結果は出なかったけど、そういう意味ではメヒコの方にリズムがあったのかなと。アルゼンチンは何だろう?きっと相手が出てこなかった事で自分たちのサッカーに狂いが出てしまったと言う感じかなと。勝手に崩れてくれない時に、崩しを担っているのが恐ろしいほど走っていたソリンのダイナミズムだけではブラジルさえ押さえ込んだメヒコに対しては足りなかった。アイマールは動くんだけど、どうしてもリケルメとの分担がまだまだ整理出来ていないかなという感じで、もらいどころが被っていたりと良いプレーは出来ていなかったし、マキシは得意のスペースに入ってゴールを狙うようなプレーがほとんどなかった*5。結局メヒコの集中力の高さによりDFに穴が出来なかった事で、結局0-0で終わった。。
  • お国柄なのか、両チームとも狡いし汚い。まあそれがラテンサッカーの粋という部分なのかも知れないし、サッカーを知っているからこそと言う点なのかも知れないけど、所々でだましあいという感じだった。サヴィオラのは愚行としか言いようがないけど*6マルケスが退場となったアイマールのあのプレーは絶対に誘ったし、コロコロさんのプレーはサッカーをわかっているからこそのプレー。そういう部分では勝つ執念というのを感じた。メヒコは小さいところでこつことやってるし。
  • 延長はもうドキドキしながら見てたけど、何か神様はメヒコに勝たせたいのかなと言う感じはした。リケルメがバテて、ボールステーションにしかなりえない状態のアルゼンチンはようやくアイマールリケルメが噛み合い始めていたけど、いかんせん中が薄く、どうしてもゴールを獲るという部分が足りない*7、その中でメヒコのあのカウンター、小さな気の利いたタメ&スペースで完全にリケルメを振り切ってエインセは止めたけど、足に当たってボールが前に出て、コロコロさんがカバーもその足に当たってはいるなんて、サッカーの神様がずるをしたからに決まってるようなゴールだった。でもあそこまで持って行ってシュートに繋げたサルシドは見事。
  • でもその後に一気に攻めに出たアルゼンチンの迫力は、神様の贔屓をぶっ壊した。迫力ある両サイドからの攻めは、以前の残り香か流動的に人が動いて、ソリンがどこにでも顔を出して崩して、そして最後はその前にビッグチャンス*8を逃していたフィゲロア。競り合いのこぼれをヒールで「反応」してトラップ、それをダイレクトで押し込んだ。フィゲロアのメンタルの強さとボールコントロールの巧みさが光ったゴールだった。結局その後もアルゼンチンは攻めたが1-1でPK。
  • PKも、ゲームと同じように読みの力の冴えるキッカー達が見事に次々と決めていったのが印象に残った。メヒコの5番手のチップは惚れた。でも結局6本目にして始めてキッカーとタイミングが始めてあったルクスがセーブ、最後は今日の試合中盤を苦しいながら支え続けたカンビアッソが決めておしまい。本当に技術・読み・気迫といった戦術を超える部分で魅せてくれたサッカーのうまいチーム同士の好ゲームだった。

まあビエルサとは全く正反対のチーム作りをしているペッケルマンだけど、同じくらいサッカーがうまくて頭の良いメヒコに押さえ込まれたのは、正直意外だった。どこかでキレて、そこをものにするかなと思ったけど、結局崩しきれなかったし、そのチャンスは訪れなかった。まあそれはメヒコを褒めるべき所なんだけど、崩しに置いてはやはり個に頼るチーム。その展開でボールホールドに置いてはに一番の天才であるテベスが使われないのは不思議だった。あそこまで現実的なチームで望んでいるのに、でもそこでクラックでもあるテベスにチャンスが来なかったのは、サヴィオラに賭けていたのかなと言うような使い方だったかなと。まあ教え子だし*9彼にエースに、と言う期待があったのかも知れないけど。

で、一番気になったのが交代。今日の交代策はある意味危険だったとも言えるモノだったと思う。確かにアイマールもマキシも素晴らしい選手だけど、後ろがら空き。しかもリケルメもバテていたし、もともと守備をしない。その中で、バランスを前に出したけど結局その交代が効果をなさないというか、リケルメという存在が大きすぎてチームのリズムが変わらない弊害というのがこの試合に置いては出たのかなと。勿論彼の確固たる信念なのかも知れないけど、アルゼンチンの技術の粋を活かしたポゼッションは、リケルメと心中って感じだった。試合の中でリケルメアイマールは徐々に昔のやり方を思い出したのか、アイマールが動き回って顔を出し、リケルメが裁くという形で役割分担されて効果は出たけど、ペッケルマンとしてもまだまだチームの構築段階なのかなと感じた。まあこれだけタレントがいたらどうしても取捨選択を迫られるわけで、何を選ぶかは本当に好みの部分なんだろうけど。
アルゼンチンの人はどう思っているんだろう?ビエルサの厳しいけど、その規律の中で解放されたような美しい流動的なサッカーに期待をし続けた国民はこのサッカーに満足するのかな?って試合中感心しながらも思った。

まあ僕としてはアイマールたんが活躍してくれれば、後はサヴィオラ*10だろうが、テベスだろうが、フィゲロアだろうが、クレスポだろうが誰でも良いけどね。しかし、同じ世代にアイマールリケルメダレッサンドロロマニョーリ*11次々と才能が生まれている事は恐ろしいよ。ディエゴ世代だから仕方ないにしても、罪なような感じ。絶対に2人以上は使えないし。まあビエルサとは違う、凄いサッカーを作ってよ*12アイマールたんを活かして(笑)

ということでまあそういう事は置いておいて何度も書いちゃうけど、凄い試合でしたね。モダンフットボールとは一線を画す、技術・読み・サッカーセンス・テンポなどなど小さなディティールに拘る両チームが戦うとこういう風になるのかと逆に感心しました。一つの隙もミスも許されない緊張感に痺れました。本当にこういう選手が増えたら強いよなぁ・・・・。メヒコに負けたのは恥ずかしい事じゃないと改めて言えるね。恐ろしいまでの懐の深さ。

ということで決勝がアルヘンティナ-ブラジウ、3決がドイツ-メヒコ。

*1:ただ、アルゼンチンはこれをベースにしていいのかな?あれだけ美しく流動的なサッカーが出来ていたのに、それを押さえてまでこっちを選択する必要性がわからない。ペッケルマンの選択なんだろうけど

*2:オフ・ザ・ボールの動きとか、スペースに抜ける動きとか、フィニッシュに絡む動きとか

*3:明らかに狙ってたのはわかった、囲んで取ろうとするんだけど、リケルメの視野の広さと技術の前に徒労にされてたね

*4:アイマール、マキシの投入で、中盤の守備力は明らかに落ちて運びやすくなったのかなと

*5:展開的にそういう事が出来る状態ではなかったわけだけど。一度惜しいのはあった

*6:開始直後はバルサにいるマルケスを敵対視してか、2度ほど抜いて良いかなと思ったけど、プレーの内容としては悪かった。ミスも多く、シュートにも行けなかった。

*7:当たり前だけどリケルメも裁くという事しかできていないのは良くなかった。疲れてるんだろうけど、もっと見たかった。フィニッシュ

*8:アイマールの独特の空間を持ったドリブルから逆サイドへ、マキシがうまくGKとDFの間を縫うように中に折り返して、フィゲロアに繋がった。ゴールは完全に空いていたけど速いボールに合わせきれず枠を捉えられなかった。

*9:ほとんど教え子なんだけどさ、自国開催で優勝に導いたエースだからか思い入れが強いのかな?それともテベストヨタカップでユースを吹っ飛ばしたから?

*10:好きだけど、このサッカーでは活きない感じ。少し下手になった?まあ調子が悪いのかな?

*11:厳密に言えばダレッサンドロロマニョーリは1世代下

*12:同じサッカーをしようとしても2年じゃ無理だし、ビエルサは自分のメソッドを8年掛けて表現したわけだし。てゆうか今でもやめないで欲しいと思うわけだけど。あのサッカーは芸術だった。そしてあれを今度こそWCで見たかった。L.ゴンザレスもマスチェラーノもいないしさ・・・。